51人が本棚に入れています
本棚に追加
これもまた、君を親王としなかった事の理由のひとつなのだった。
「十六歳のあなたとでは、本当は親子というより姉弟なのてしょうが」
帝が苦笑する通りではあるが、自分の顔を見て源氏の君が母を慕う気持ちを少しでも癒すことが出来るのならと、宮は帝の願いを聞き入れた。
そして、しんみりとした気持ちで源氏の君へ視線を移すと、肝心のこの君はニタリと笑ってみせるのだ。
宮が驚き、まじまじと見つめると、見られている間中ずっとふざけた顔をしたままだ。
ところが、帝がやさしく君を見つめる時には、さっと表情を改め殊勝にしている。
そしてまた、帝の目を盗んでは笑って見せたりわざと気難しい顔をしてみたり。
宮は、初めては戸惑っていたものの、やがておかしくてたまらなくなり、笑いを堪えるのに必死になってしまった。
帝が心配したり周囲が哀れんだりしているほどには、この君は、自分の生い立ちを嘆いてなどいないのかもしれない。
帝に認めらるたのちには、源氏の君はおおっぴらに宮のもとへ通ってくるようになった。
用事をすませ、局である飛香舎(ひぎょうしゃ)に宮が戻ってくると、君が呑気に昼寝をしていたりする。
気持ちよく熟睡している様子なので、風邪をひかないよう体に宮の衣装などかけてあげていると、源氏の君が急にくすくす笑い出した。
最初のコメントを投稿しよう!