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「まあ、起きていらっしゃるの?」
宮は驚いて手を引っ込めた。
すると君は、何がそんなにもおかしいのか、まだ甲高い笑い声を辺りいっぱいに響かせる。
なぜ、と尋ねても君は笑い続けるだけだった。
それがいかにも楽しげで、初めては眉をひそめていた宮も、つられて口もとがほころんだ。
飛香舎の坪庭に藤が植えられていた事から、宮は「藤壺宮」と呼ばれていたのだが、その藤が満開の時にはもちろん源氏の君がやって来て、一日中うっとりと花を眺めていた。
宮が隣に座り、共に花の色を楽しんでいると、しばらく経ってから君は宮を振り向き、やわらかく微笑んだものだった。
季節が変わればいち早くそれを教えてくれる。
可憐な花が咲けばいち早くそれを届けてくれる。
自分が毎日を楽しむことの一端を、宮に届けてくれるのだった。
いや、宮にそれを届けることで、源氏の君は自分自身、季節を愛でていたのだろう。
ものを感じるということに関して天賦の才をもって生まれてきた少年であるように宮には思われた。
そして、感じたのちに身の内に生まれたものを歌に、舞に、絵に、楽の音にと、瞬時に美しく、かつ的確に表現してしまう。
負けられないとばかりについムキになり、君の来ない日などにはこっそりと精進したりもするのが宮にはまた楽しい日々であった。
ある時など、やって来た源氏の君に、桜に降り懸かる雪の歌など詠みかけてみせると、君はひどく感心し、宮を眩しげに見つめてくる。
実は前夜、乳母が、
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