藤壺

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雲の様子を占うように見て、 「もしかしたら、明日は雪になるかもしれませんよ。もう桜も満開だというのに、不思議なこと」  そう言ったのから思いつき、すでに詠んであった歌だ。 が、いかにもふと口ずさんだのだというふうに装うと、君は素直に受け取り感心してくれた。 「さすが宮様」と源氏の君から仰ぎ見られるのが、宮には何よりの快感だった。 源氏の君の上を行きたいと張り合うのではなく、ただ、君と共に日々を楽しむために君の感性についてゆける自分でありたかったのだ。 才長けた源氏の君の好敵手としていつまでもありつづけたいと願い、そのために宮は己を磨く。 穏やかな日々だった。そして、後から思えばとても愛しい日々だった。 人々は、帝から特別に愛されたこのふたりのことを「光る源氏の君」そして「輝く日の宮」と呼んで讃えた。 その日々は、けれど長くはつづかなかった。 源氏の君は、輝くはがりに美しい少年だった。 その美しさには少年だからこその輝きが秘められ、いつか大人になったなら、今とは違うーーー世俗にまみれたつまらないものが混じってしまうのだろうことが見えてもいた。 その頃になっても君は変わらず美しいのだろうが、今ここにある輝きは決して保たれることは
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