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ない。
君が大人になり、さまざまな感情に触れ、さまざまな思いを抱くいちに消えていってしまうに違いないもの。
その儚いものを帝は愛し、惜しんだ。出来る事ならいつまでも童形のままでいさせたいとまで願ったという。
しかし、君が十二歳になった年、まだ幼くて不安ではあるけれど、いつまでも思いきれぬよりはと、決心したのだった。
宮は、君自身の口からそれを知らされた。
いつものようにふらりと現れた君が珍しく黙りこくったままなので、どうしたかとかと問い詰めると、
「元服をすることになりました」
硬く、小さな声で言う。
「父上が、宮様にはちゃんと自分でご報告申し上げなさいとおっしゃるので」
だから今日は来たのだと、無愛想に付け足した。
まあそれはおめでとうございますーーーと、言葉は喉元まで上がっているのだが、宮にはどうしてもそれを声にする事が出来なかった。
君の様子が、あまりに妙だったからだ。
宮を決して見ようとしない。
そのまま、また黙り込む。
何の隔てもなく向かい合った源氏の君の肩ごしに、今はつやつやとした緑の葉ばかりが眩しい藤棚が見える。
重苦しくつづく沈黙に、やがて耐えられなくなった宮が唇を開こうとすると、それを制するか
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