藤壺

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「そうなのかしらーーー」  と、宮は呟く。  本当に、そうだろうか? 元服をすることへのーーーいや、まだ見ぬ大人の世界への不安を抱いて、君は宮のもとへやって来たのだろうか? あの源氏の君が?  宮には、どうしてもそうとは思われなかった。が、ではなぜ君はここへやって来たのかと問われても、答えを返す事は出来ない。 宮自身、先程の君の様子を読み解く事が出来ずに戸惑っていた。  やはり、命婦の言うように受け取るのが妥当なのだろうか?  しばらくの間は、それでも色々と思い悩んでいたのだが、宮はやがて、元服を迎える前の少年の複雑な気持ちを思いやり、おそらく命婦の言う通りであったのだろうと答えを出した。 源氏の君に申し訳ない事をしたと悔やみながら、その日を終えたのだった。  君の元服の式は、東宮である兄君の時に勝るとも劣らない豪奢(ごうしゃ)なものであった。  引き入れと呼ばれる加冠の役目を仰せつかったのは、左大臣。角髪(みずら)に結われていた黒髪がそがれた時には、そのつやつやとした美しさを惜しんで居合わせた者の間にため息がもれたものだか、大人の印である冠が君の頭にのせられると、今度はあまりの初々しさに再びのため息が満ちたのだった。
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