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藤壺宮は、その日一日を落ち着かない気持ちの中で過ごした。
「つつがなく、お式はすんだようでございますよ」
王命婦がひとつひとつ、宮の耳に入れてくれる。
帝が心配していた君の幼さが、逆に君の愛らしさや可憐さを童形(どうぎょう)のままでいさせる以上に引き立てることとなったのだという。
帝をはじめ人々が皆、君のけなげな美しさに涙をこらえきれずにいる中、無事に元服の式は終わったらしい。
宮は、ひとまずホッとした。
明日にでも、君はきっとここにやって来るだろう。
その時、今日という日をしっかり勤めあげたことを褒めてあげよう。
そう思うと、自然に頬が緩んだ。
ところが、命婦がふいに言ったのだ。
「添臥(そいぶし)のお役目は、左大臣家の姫が勤められるようですね。四つお年上の姫君だというお話ですけれどーーー左大臣家の御方ともなれば、そのまま、君の奥様におなりなのでしょうね」
添臥とは、東宮や皇子など高貴な身分の少年が元服を迎えた夜、添い寝をする役目の事だ。
それは年上の女性である場合が多く、命婦の言うようにそのまま妻となったりもする。
ーーー妻。あの源氏の君が、妻を迎えるというのか。
そうか、元服するというのはそういうことでもあったのだ。
では明日、君はここには来ないかもしれない。
迎えたばかりの妻との甘いひとときの余韻を抱きしめたままでは、母親代わりの宮のもとへ来ようなどとは思いつきもしないだろう。
明日も変わらぬ顔を見せてくれるはずと思い込み、「褒めてあげよう」などと決めていた自分
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