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それは我が儘な恋であったのかもしれない。
父を亡くし、強い後ろ楯もないまま入内して来た一人の少女に帝は惹かれ、一途に愛した。
その時すでに右大臣家の姫・弘徽殿女御(こきでんのにょうご)が第一皇子を産んでおり、後宮では当然のことながら、その弘徽殿女御が権勢を振るっている。
そんな中、まるで女御を蔑ろにするかのように少女にのめり込んでいった帝の恋は、やはり我が儘なものであったのかもしれない。
少女の身分は更衣であった。
局は桐壺(きりつぼ)であったため、桐壺更衣と呼ばれた。
亡くなった父は大納言であり、母親も旧家の出身で、本来ならば帝のおそばに常にお仕えしているような低い身分の者ではないのだが、帝はどうしても更衣を離そうとしない。
お召しの夜が明けても更衣は桐壺に帰ることはできず、ずっと帝のそばにあり、つい、身の回りの支度などにも手を出してしまうことがある。
それはただ帝を想うがゆえのことであったのだが、更衣の身分にはそぐわない行為で、やはり世間の嘲笑を呼ぶ。
「私のそばにいれば安心だからね」
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