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思い上がっていられたのか。
「ーーー宮様?」
黙り込んでしまった宮の顔を、命婦が心配げにのぞき込む。
その気配を感じ、宮はあわてて笑顔を取りつくろい、
「源氏の君も、これで一人前におなりなのですから、こちらにいらっしゃることもきっと少なくなるでしょうね。ーーー寂しいこと」
最後に呟いた自分のその一言が、思いもかけず宮の胸に重く響いた。
ーーー寂しい。
ああそうだ、寂しい。
源氏の君の姿を今までのようには見られなくなるであろうこれからの日々は、たまらなく寂しいものであるに違いない。
とは思いつつ、実際には源氏の君がすぐに姿を見せてくれるのではないかと期待していなかったとは言えない。
しかし、翌日もその翌日も、源氏の君は宮のもとに姿を現しはしなかった。
そして、さらにその翌日も。
元服するーーー大人になり。それは、少年時代の気ままさをなくすことでもある。
我が物顔で内裏を歩き、あちらこちらに笑顔といたすらを振りまいていた少年・源氏の君が、幼いながらも政治の一端を担う者として歩き始めたのだ。
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