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もう、宮のことなど振りむかないかもしれない。
忙しさに取りまぎれて、宮というひとを思い出すことも稀になっていくのではないか。
初めは寂しかった。
ただ寂しく、楽しかったあの日々がせつなく思い返された。
しかし、元服の日から数日が過ぎても顔を出さず、文のひとつも寄越さない源氏の君に、やがて宮の中で小さな怒りが生まれる。
もれ伝わってくる話では、君は左大臣家の姫とも仲むつまじく、公式の場でもひとりの大人として十分すぎるほど立派に振る舞っているそうだ。
が、その姿を宮に見せてはくれない。
何の報告もない。
これは一体、どういうことか? あれほど親しんでいたというのに、もう宮のことなどどうでもよくなってしまっているのか?
「ーーーもう、いいわ」
宮の小さな呟きは、いつもそばにいる命婦の耳にも届かなかったに違いない。
源氏の君にとっても、こんなはずではなかったという日々がつづいていた。
四つ年上の妻、左大臣家の姫君。
それは思いがけず美しいひとだった。
年上の美しいひとーーーあの宮と重なる部分があるというだけで、君は、この妻にも親しめるのではないかと期待をもったのだった。
いや、妻を、宮の身代わりにしたてられたらいいと思った
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