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その時、君が向かった先が宮のもとであった。
ところが、肝心の宮ですら惟光と同じように呑気で、失望した君はそこからも逃げ出す他なかった。
「あの方は、私の気持ちなどちっとも察してはくださらなかった」
晴れぬ気持ちをもて余し、ひとり、宮をなじるように呟いてみる。
しかし、気持ちは晴れない。
だからといって沈んだ顔ばかりしているわけにもいかない。
君は、御所(ごしょ)を照らす「光る君」であるのだから。
皆が、明るく美しく朗(ほが)らかである君の姿を望んでいるのだから。
もういい、宮のことは忘れるのだ、これからは妻をーーー葵(あおい)と呼ばれる少女を、宮の代わりに思えばいい。
ところが、その葵とは今ひとつ噛み合わないものを感じて、源氏の君は失望した。
何を尋ねてみても、まともな答えを返してくれることのない女性だった。
初めは緊張しているせいかと思い、少しずつ慣れ親しんでいけばいいのだと、藤壺宮への思いに囚われすぎてはいけないと葵を思いやってみた。
が、一向に葵が打ちとけてくる気配はない。
やがて君は、漏れ伝わってくる話の中から、実は葵は、
「東宮からも妃にと望まれていたのが、臣に下がった源氏の君などの奥方にされて、お気に召さないようですよ」
という気持ちでいるらしいことを知る。
そうか、そういうことだったのかと、こちらも意地を張り、結婚後、左大臣家には寄り付きも
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