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しないという逆襲に出てみたりはしたものの、やがてそれも虚しく寂しく思われて、ただひとり、ため息をついてみる。
なぜ、こんなことになったのか? こんなはずではなかったのに。
藤壺宮と離れることになっても、その身代わりとして葵を思う事が出来ていたならば、こんな思いをすることもなかったはずなのにーーー。
やがて、源氏の君は十五になった。
藤壺宮は、相変わらず顔を出そうとも近況を知らせようともしてこない君を、最初からいなかったものと思おうと考え始めていた。
いやすでに、彼の姿を思い出すことすら無駄であると思い始めてもいたのだ。
そんな中、乳母子の王命婦がにやにやと笑いながら宮のそばにやって来ると、
「宮様、源氏の君の噂をお聞きになりまして?」
と言う。
「知らないわ」
つとめてそっけなく答ながらも、君に関する話を聞くのが嬉しいと思っている自分をどこかに感じ、宮は苦々しく思う。
「六条の、あの御方のもとへ通いつめていらっしゃるらしいというお話ですよ」
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