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「六条のーー方?」
知らぬ呼び名である。
「ご存じありませんの?」
まあーーと命婦は大げさに驚いてみせる。
「亡くなられた前東宮の妃であった御方ですわ」
今の東宮は源氏の君の兄だが、その前に東宮であった人は、父帝の弟ーーつまり君の叔父である人だった。
即位することなく若くして亡くなったその人の妃であった女性が今は六条の辺りに住まい、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)と呼ばれている。
その女性と源氏の君がーー?
「六条の御方さまは源氏の君より七つも年上でいらっしゃるのですって。七つといえば、宮様よりも年上でいらっしゃるということでございましょう?何と申しますか……さすが源氏の君様ということでしょうか」
実際の年齢よりも大人びているーーかと思うとどうにも放っておけないような幼さをも併せもった源氏の君の相手としてふさわしいのは、やはり恋の上手である年上の女性なのではないかと、命婦は上気した顔でそう語る。
だから、六条に住むかの女性は源氏の君のお相手としてあまりにもふさわしすぎるのではないか、と。
「そうかしら?」
自分の口から思わずこぼれた刺々しい声に宮はあわて、言い訳をした。
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