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帝はいつも、更衣を抱きしめ、そう言った。
嘲笑の果てには、陰湿なイジメが待っていた。
背後には弘徽殿女御がいたのかもしれないし、女御が関係してはおらずとも、女御のご機嫌を取り結ぼうとした者の勝手な振る舞いであったのかもしれない。
帝は更衣を守ろうと、常におそばに彼女を置いたのだ。が、帝の言葉をもらう時、更衣は淡く微笑するだけだった。
帝が更衣をかばえばかばうほど、女たちの嫉妬は燃え盛る。そういうものだ。
しかし、だからといって帝が自分を見放しでもしたら、きっと寂しくて泣き暮らすだろう自分にも、更衣は気付いているのだった。
恋は、帝のものだけではなかった。更衣もまた、自分を深く愛し、この上なく慈しんでくれる帝をこの世の何よりも愛していた。
「私のそばにいれば安心だからね」
帝のその言葉が、更衣には何よりも嬉しかった。
あなたがわたくしを庇ったりなさるから、わたくしが辛い思いをするのです
と喚き散らすことも出来るのだろうが、そんな気持ちは微塵も湧いてはこなかった。
抱きしめられれば素直に応える。
まっすぐに抱きしめられること、そしてその想いにまっすぐ応えられることが更衣の、この世でただひとつの自慢だった。
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