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二人の間には、余程の縁があったのであろう。やがて桐壺更衣は皇子を産んだ。
しかし、そうなればますます女たちの嫉妬は激しくなる。恐ろしいことに、宮中の女たち皆の気持ちがひとつになると、更衣をいじめることこそが、いつのまにか正義にもなってくる。
帝のもとへ向かう途中、打端や渡殿に汚物を撒き散らされたことがあった。馬道(建物と建物の間をつなぐ板敷きの廊下)の両端の戸を閉められて、間に閉じ込められてしまったこともあった。
こんなことが重なるうちに、心労のせいか、もともと体が弱かったのか、更衣は病を得て寝付いてしまった。
それでも帝の執心はやまない。
自分が慈しむことで更衣の病も癒えるに違いないと信じて愛し続けたが、それはただ更衣に無理をさせることでしかなかった。
やがて、あまりにも衰弱しきった更衣を思いやる母親の願いに負け、帝はやむなく更衣を里へ退がらせることにしたのであった。
「死ぬ時は一緒だと約束をしたよね」
握りしめた更衣の手に頬を擦り寄せ、帝は呟く。
「もっともっと生きて、帝のおそばにいたいのに」
更衣も涙混じりに、帝のその手を自分の頬に抱き寄せる。
それが、ふたりの永久の別れであった。
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