後日譚 其の参 『対極』

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「真継」 汗で張り付いた前髪を掻き上げてやると、迫力無く睨んでいた視線をふと外された。それからーーー… 「私はもう…以前のような子供じゃありません」 そう呟いた。 「そりゃ…あれから随分経つからな」 人間は成長が早い。あの時ガキだった真継は、今や立派な大人だ。外見だけでなく中身も、見違える程に成長している。それとも、真継が言う「子供じゃない」の意味は、例えば「以前のように(うぶ)でも純粋でもなくなった」という意味だろうか。 あれから人一人成長して大人になるだけの時が流れた訳だ。真継がそれなりに色々と経験していても不思議はない。考えれば胸を焼くような嫉妬も湧き上がるが、それは言っても仕方がないと分かっている。第一、あの時手離したのは俺だ。俺が真継から逃げたのだ。だから俺にどうこう言う資格などない。 「いつまでもガキのまんまって訳にはいかねぇだろ」 「でもっ…藍堂は少しも変わっていない」 「俺か?そりゃ俺は人間じゃねぇし、時の流れが違う」 「……そうじゃ…なくてっ…」 やけに歯切れの悪い物言いに、俺の方が焦れた。 「はっきり言えよ」 少し強い口調でそう言ってやると、ようやく観念したのか、ぽつりぽつりと語り出した。その内容に思わず絶句して、危うく〝万が一〟が起こるところだった。 「私ばかり成長して……身体も大きくなって…子供の頃とは随分変わってしまいました。傷も…たくさんあるし……もう…藍堂と出逢った頃の私じゃないんです。 藍堂は変わらないのに、私だけが歳をとってしまった……。こんな私は嫌でしょう?」 伏し目がちの視線で見つめてくる真継。その眼差しが不安に揺れているのが分かる。何故そんな悲しそうな顔をするのかと思う反面、ようやく真継の言わんとしている言葉の真意が理解出来て、空気を読まず大きな溜め息を吐いてしまった。それを見た真継が怯えるように肩をすくめたから、また溜め息。 真継は多分、とんだ勘違いをしている。 「おい真継……お前…俺が稚児趣味かなんかだと思ってねぇか?」 そらした視線が肯定の意を伝えてきた。
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