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「では…本題に入らさせていただきます」
壱は軽く咳払いした。服を着たシーフの隣で、同じく服を着たマリアが立っている。
「暗殺集団が王の手によって、結成された模様です」
「…それが俺を狙っていると?」
壱は頷いた。マリアが声には出さないが、顔が驚いている。
「やれやれ…アイツは余程、俺が嫌いらしいな」
「…シーフ…」
不安そうに呟いたマリアを、シーフは腰に手を回し引き寄せた。心配するなと、その顔が言っている。
「…壱、世間から離れていたせいか、色々と疎い」
「では、僭越ながら、説明させていただきます」
壱は持っていた本を開いた。用途に合わせて、使い分けされているらしい。
「シーフ様がフィレスを去って五年…その間に、実に様々な出来事がありました」
すでに五年も経ったのかと、シーフは頭の片隅で思った。
「これは当然ですが…バージル王亡き後、王子ダイスが即位いたしました」
「本当は俺の筈だったがな」
皮肉そうにシーフは笑った。一瞬、壱が声を詰まらせたが、言葉を繋げた。
「その後貴族が台頭し、格差は拡大…さらに、フィレスはアリマに進攻…それにより…」
「待て…!フィレスが進攻…だと…いつだそれは!?」
壱の説明を遮り、シーフが驚いたように言った。
「シーフ様が去って、半年後です」
「…あの、馬鹿が…」
ヴァイセルが行った攻撃だけで、アリマは壊滅状態になったそれだけで十分である。過度に痛めつければ、それだけ恨みや憎しみが増す。
「アリマは事実上、この世界から消滅しました」
「…そうか」
シーフが机をガンッ、と強く叩いた。その音に、五が一瞬怯んだ。それに気付いたシーフは軽く微笑んだ。
「悪い、怖がらせたな」
「…いえ…大丈夫です」
五は眼を伏せた。失恋した身に、シーフの言葉は優しすぎる。
「それともう一つ、執政のクリスが、この進攻に唯一反対した為、処断されました」
「クリスさんが…!」
マリアが驚いて、口元を両手で塞ぐように隠した。クリスはマリアの父、ガルフの部下である。その為、クリスの事は良く知っていた。
「今は貴族の一人、ランブル・シェランが執政になっています」
壱が口を休めるように、息を吐いた。
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