静かなる胎動

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賑やかな酒場に、一人の男が入ってきた。昼間だと言うのに、中は満席に近かった。 「いらっしゃい、お一人ですか?」 店員であろう、女性が話しかけてきた。彼女と、その妹がここで働くようになってから、客足は増えたらしい。その美貌を見れば、その理由も頷ける。 「いや、待ち合わせてるんだ。気にしないでくれ」 「そうですか…分かりました」 女性は一礼すると、その場を離れた。男は辺りを見渡したが、目的の人物はすぐに見つかった。 「よぉ、相変わらずの図体だな…参」 「…声を潜めろ、弐」 弐は向かいに座った。少し参は老けたような気がするが、当の本人は元気そうである。 「久しぶりだな、お互いに会うのは…」 参は感慨深く言った。弐は酒を一口飲むと頷いた。 「あぁ、不思議なもんだな、同じ街中にいたってのに、気付かなかったからな」 弐が街中で偶然参を見かけて、酒場で待ち合わせた。久々だと、話も盛り上がる。 「他の奴は?」 参がおもむろに口を開いた。 「全員は知らんな…」 弐が腕を組んだ。バラバラに散った仲間は、思い思いの道を進んだ。その為、把握は難しい。 「お待たせしました」 さっきの女性が料理を円卓に置いた。 「一人位は知らんのか?」 参はそう言いつつ、料理に箸を付ける。弐はそれを聞いて、軽く笑った。 「…変な事言ったか?」 「…アレ、五だぜ?」 参が驚いて後ろを見た。先ほど料理を置いた女性が振り向き、片目を閉じた。いたずらっぽく笑っている。 「…マジか…」 参は驚きのあまり、箸を落とした。 「動揺しすぎだ」 弐は酒を飲み干した。
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