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「少なくとも、双子の所在は分かったな」
弐が言った。一目見た時は気が付かなかったが、動作で五と六だと気が付いた。伊達に、同じ洞窟内で過ごしていない。
「俺が知ってるのは他に十と壱、それに八だな。まぁ十は店持ってるから、探すも何も無いがな…」
物資調達の為の資金繰りが無くなったからだろうか、あれから十の店は、フィレス内で不動の地位を築いた。壱は錬金術を学んでいる事以外、よく分かっていない。八はひっそりと余生を過ごしている。両腕を無くした彼は、どうやって生活しているのだろうか。
「…お頭は…」
参が口を開いた。が、すぐに閉ざし、首を振った。
「誰も知らなかったな」
風のように、頭首のシーフは消えた。それにより、義賊は解散した。
「そうだな…と、言いたいところだが…」
「…どうした?」
深刻そうな顔をした弐を見て、参は首を傾げた。弐は声を潜めた。
「実はな…フィレスの王が、まだ命を狙っているらしい」
「何…!」
思わず声が大きくなった参を、弐は口元で人差し指を立てて辺りを見渡した。周りは気付いていない。
「声を潜めろ言ったのは誰だよ」
「…すまん…」
参は軽く謝罪した。気を取り直した弐は、話を続けた。
「詳しくは知らんが、暗殺集団を結成したらしい。噂じゃ、少し前の事件も、そいつ等の仕業らしいぜ」
貴族の一人が惨殺された。犯人は捕まっていない。
「それは…マズいな」
参は唸るように言った。王直属の暗殺集団だろう。絶対忠誠の強さは、計り知れない。
「とにかく、早くお頭に知らせないとな」
「知らせるって…どうやって」
参の疑問に、弐は自信ありげに鼻を鳴らした。
「一人いるだろ?俺達以上に、お頭を知っている奴が」
「…壱か…」
二人は立ち上がった。店員である五に、代金の入った小さな布袋を投げ渡した。
「ごちそうさん、なかなか旨かったぜ」
「どうも…」
五が軽く頷いた。それを見届けると、弐と参は酒場を後にした。
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