静かなる胎動

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「壱、いるか?」 街から西に少し離れた所に、一軒の家がある。その扉を、弐は叩いた。ややしばらくして、家主の壱が出て来た。眼鏡の形状が変わっている以外、大きな変化はない。壱は二人を見ると、頬を緩ませた。 「お久しぶりですね、お元気ですか?」 「おぅ、元気だぜ」 壱が二人を中へ誘った。木製の部屋だが、一室だけ石造りの部屋があった。 「実験室ですよ」 首を傾げていた弐に、壱が言った。 「迂闊に失敗すると、家が半壊しますからね…ここだけは特別仕様なんですよ」 「…変わらんな」 参が呆れたように呟いた。 「シーフ様の居場所ですか?」 「あぁ、何か知らないか?」 奥の部屋は生活空間になっているらしく、簡素なベッドが片隅に置かれている。 「ふむ…」 顎に指を添えて、壱は考え込んでいる。遠くで鳥のさえずりが聞こえる。 「東…ですかね」 「東…?俺達のいた根城にいるのか?」 参の言葉に、壱は首を振った。 「恐らく、そこより更に東…森の中ですかね」 「森って…」 弐が驚いたように呟いた。フィレスの東には山がある。そこより先は森だが、広大である。 「時間との勝負だな」 参が呟いた。暗殺集団は、すでに動き始めているだろう。後れをとれば、最悪の事態になりかねない。 「時間はありませんが、明日を待ちましょう」 外は日が傾きかけている。今から向かえば、探索中に夜を迎えてしまう。 「歯がゆいな」 「シーフ様は、簡単にやれたりはしません」 壱は落ち着き払っている。信頼があるからだろうか。
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