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かつて過ごした洞窟を裏に回った。眼下から地平の先まで、森が広がっている。
「…で、どうやって探すの?」
機嫌が斜めの五が壱に聞いた。少し離れた所で、弐が岩に腰掛けている。
「参、あなたは眼が良かったですよね?」
「あ…?まぁ、そうだが…探せるのか?」
そう言いつつ、参は遠くを見渡すように、眼を細めた。
「シーフ様と言えど、食事は大切な行為…炊事の煙は見えませんか?」
「ちょっと待ってろ…」
参は一点を見つめた。細い煙が、森の中から立ち上っている。はっきりと視認できないが、煙突のようなのが確認できる。
「…見つけた」
「…では、向かいましょうか」
推理が当たったことを誇るように、壱は笑みをこぼした。
「さて、と…」
弐が立ち上がって、眼下を覗いた。時は流れても、吸い込まれるような高さは変わっていない。
「怖じ気づいたなら、帰りなさい」
吐き捨てるように五は言うと、勢い良く飛び降りた。その後に、六が続く。
「…性格変わってねぇか?」
「少なくとも、お前のせいだろうな」
弐と参が同時に飛び降りた。その場には、壱だけが残された。
「…そう言えば…」
壱は眼鏡の縁を上げた。
「私は、降りた事がありませんでしたね…」
仲間になる際、力量を見るために崖を滑り降りるのが習わしになっていた。しかし、最初からシーフに従っていた壱は、行っていない。
「仕方ありませんね…」
どちらかというと、壱は頭脳派であり、果敢な行動は余りしない。しかし、状況が状況である。壱は真似て、崖から飛び降りた。景色が霞んで見える。
「死なない事を、祈りましょうかッ…!」
頬が引きっているのが、自分でも分かった。
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