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『それで?アンタは一体何がしたいのかな?冒険?そんなに愉快な事にはならないとおもうけどねぇ(笑)』
茶色い部屋の中で一人が言った。
若い男に見える。
まるで映画の批評か友人の馬鹿話をするかの様な、酷く軽薄な声だった。
床も、壁も、天井も、一組だけ置いてある応接用(と言うには粗末過ぎるが)のイスとテーブルも、全てが墓土の様な灰色がかった茶色一色だった。
ただ、軽薄な声の男の背後の壁にある扉だけは、漆黒だった。
余りに黒く、扉なのかその先の空間が暗闇なのかさえ解らない。
『いいや。目的はと言うなら、一言で言えば人探しだ。』
先ほどとは違う声が言った。
落ち着いていて、少し高い。女の声だ。
軽薄な声の男の向かい側に座った声の主は、夕焼けの色をした髪を少し振って続ける。
『神様を拝みたくてね。』
神?と男が眉をひそめた。
『神って…イリア・ストラトスかい?あの…』そんな小物じゃない、と女は男の言葉を遮る形で呟いた。
男の顔に疑念の色が濃くなる。
『一番上にいるんだろ?ここいらでは何て呼ぶんだ?』
女の言葉に男は固まり、顔をほんの少しひきつらせ、そして笑った。
『…クハハハハハハ!最上階に(笑)!?アンタ…<神父>に会うってのかい?クハハハハハハ!』
笑い続ける男の前で、女はもう言葉を発する事はしなかった。
異常な笑いはしばらく続き、やがて笑い終えた男が口を開いた。
『あー…アンタの理由は解った。ここ378年、4736625人の中でもそんな事を言った奴は初めてだがね(笑)』
ゴゥン…と男の背後、あの黒い扉が開く。
扉の先も、やはり闇。
『管理人である僕が認定しよう。空縞緋色。扉をくぐればそこはもう【教会】だ。アンタが4736232人目の死者にならないよう、一応祈っておくよ(笑)』
最後までふざけた口調の自称管理人を無視して、女―空縞緋色は闇へと歩みを進める。
その夕焼け色の髪までが闇に消えた時、扉も、男も、イスもテーブルも、そして部屋さえこの世界から消え去った。
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