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一見、そこは暗い部屋に見えた。 月明かりの差し込む神殿の様な、怪しく美しい紫。 「何とも…話に聞いた通りではあるな…」 そこに立つ影が呟いた。 平均的な身長で、グレーのスーツスタイル。判りにくいが女の様だ。 ネクタイはしておらず、腰には太いガンベルト。 ただしホルスターは外されたのか最初から無かったのか。当然銃もそこには無い。 体格は少し痩せている程度で、印象的なのは猛禽類を思わせる鋭い目と、夕焼けの色をした髪だ。 ちなみに長くも短くも無い。耳が完全に隠れるボブ、と言えばいいか。 右手には旅行者が使うような、車輪が付いて片手で引けるバッグ。旅行者のそれよりは少し大きい。 「しかしなんて広さだ…いや、ここまでくると大きさか」 女が言ったのは無論バッグの事では無く、目の前の光景についてだった。 そこは部屋では無かった。幅8m程の通路…と呼んでいいのか、とにかく真っ直ぐに延びている。 視線の先でただの点となるほど遠くまで。 その両脇は垂直の断崖。万一足を踏み外したらどうなるのか…と覗き込んでも底は見えない。 それどころか道の先も、右も左も、あるはずの壁すら見えない。 暗闇に見えるのは果てない通路のみだった。 明かりがある訳では無い。なのに見えると言うことは、通路は確かに怪しい紫色を発している。 足元も、背後の壁も同様に。 女は少し考えて、それから前を見て、頬に汗をたらしてから 『ま…行くしか無いか。スクールの話が本当だったら、この道を通るのに何年かかろうが問題無いし。現にここまでは話通りだし。』 呟いた。そして急にしゃがみ込むと、両手を床に付ける。 紫色の床に波紋が広がり、手の中に光が生まれる。 『これも話通り。さ、行くか。』 手の中に生まれたもうひとつをみて再び呟いた。
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