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紫色の通路を、女は歩き出した。 靴音と、バッグの車輪が奏でるカラカラという音だけが響く。 暫く行くと、通路の端に何かが見えた。どうやら…人の様だ。 人影は座りこんでいて、女が近付くと顔をあげた。 病に伏せた老人の様に憔悴しきった表情の男は、かすれた声をだす。 「…アンタ…新入りかい…」 「あぁ。ついさっき入ったばかりだ。アンタは?」 男は自分の名を名乗り、約12年前にここに来たことを告げた。 「12年…やっぱりこの話も本当だったんだ。」 「ん…?」 「あ、いやこっちの話。私は空縞緋色。貴重な情報をありがとう。」 そう言って、女―空縞緋色は怪訝な顔をした男に背を向けた。 その時だった。 ホゥーーー…ーーン… 音が 聞こえる 聴こえる 「…まさか」 緋色は緊張した面持ちで辺りを見回す…異常なし…気のせいか? 「うわっ!?」 男の声に振り向くと、紫色の通路に波紋が広がっていた。 確かに硬かったそこに。 まるで水面の様に。 男の表情が凍りつく。 「は…花が…こりゃあ…!ア…アンタまさかイレギュラーか!?」 波紋の中からズルリ、と『何か』が這い出てきたのだ。 人間の骨格を、コールタールで固めた様な異形。 吐く息は硫黄の匂い。 大きさは…緋色より1mは大きい。 特に武装はして居ないようだが、どれ程の膂力を持っているのかは予想出来ない。 緋色はその異形の正体も目的も全く知らなかった。 しかしこれまで間違い無かった『話』から、それらを推し量る事は出来たので、相手の戦力を測ることに集中したし、だから当然男にも言葉は返さなかった。 「【イレギュラー】カクニン。コレヨリはいじょシマス。」 似合わない無機質な声で異形が戦いの鐘を鳴らす。と同時に右腕を雷光の速度で振り降ろす。 ゴゥッ! 夕焼け色の髪が散る―――
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