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「これで告訴を取り下げてもらえませんか?
葬式の費用の足しにくらいはなるでしょう」
茜の死で、ついに父さんが裁判を起こす事を決めた矢先の訪問だった。
両脇にSPを従え、札束の入ったスーツケースを右手に携えての訪問。
蛙の子は蛙とはよくいったものだ。
「ふざけるな!!」
普段は温厚な父さんが振るう拳が、鳴海の父、鳴海飛鳥に届くことはなかった。
「長い物には巻かれろという言葉を、ご存知無いようですね」
SPの一人に床に叩き伏せられる父さんを見下しつつ、蛙は哀れそうな目をする。
「私の辞書にそんな言葉は載っていないのでな」
「不愉快だ、やれ」
「はっ!」
めきっ。
鈍い音とともに父さんの右上腕部はぐにゃりと折れ曲がる。
「父には僕から言っておきます」
声を出さず痛みに耐える父さんから目を反らし、俺は前に出た。
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