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「―――ジパングなんて管轄外ですよ」
薄暗いオフィスに、若い男の気だるい返事がこだました。
面倒臭いなぁ、と人知れず彼は口の中で呟く。
ブロンドの長髪を後ろで束ねている。彼は中性的で整った顔立ちをしているので、女の子のような髪型でも違和感がない。
「我慢しろ、ユリス。若輩者はこきつかわれるのが相場だ。それに、現地にいる『彼女』も協力してくれるだろう」
一方、その若者と机を挟み対面に座る男は、無精髭を生やした40代前半ぐらいのアジア系の男だった。
先輩と後輩。
上司と部下。
外面的に年の差が離れているように見えるので、様々な解釈がとれるだろう。
それにしても、と若い男は切り出した。
「難儀な時代ですねェ。あちこちで事変だらけだぁ。そのうちウチの部隊もくたびれますよ」
口に出すと、余計に虚しく感じる。
潰しても潰しても、無くならない火種。いつも後手に回るだけで、対策の一つもまともに打てない。
『彼ら』の問題点は、そこにあった。
不安を取り払うように初老の男は頭を振り、
「いずれ報われる日が来るさ。それに―――……」
そこで言葉を切る。
言わなくてもわかる。若い男は、理解していた。
ジパングには、救世主【メシア】がいると――――。
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