遠い夏の日

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あれは、暑い夏の日。 確か、夏休みど真ん中の木曜日だった気がする。 いつもどおり2人で他愛もない話をしてたんだ。 そんなとき、何故だか犬が入ってきたことがあった。 「冬夜・・・・犬だ。」 「・・は?犬って、図書館だぞ、ここ。」 「でも・・・犬。」 椿の指差す方をゆっくり見ると、小さな小さな犬がイスの間を歩き回っていた。 「今はやりの小型犬?」 「捨て犬な訳ないよな。首輪ついてるし。」 「じゃあ、誰かがこっそり連れてきちゃったのかな。」 椿はすくっと立ち上がると、子犬を抱き上げた。 「かわいい。」 「椿、犬好きなんだ?」 「昔、飼ってたんだ。」 犬と戯れる顔は、少し緩んでていつもとは違う顔だったから。 本当に好きなんだなぁって思った。 「コロ~」 小さな男の子が小声で名前を呼びながら、部屋に入ってきた。 「コロちゃんらしいよ。」 「あっ!!!コロ!!!」 うれしそうに入ってきた男の子に椿はコロを手渡す。 「図書館にワンちゃんは、連れてきちゃダメだよ。」 「うん。」 「館長に見つかると大変だから、そおっと出な」 「うん。ありがとう。」 男の子はコロが見つかったことがすごく嬉しかったようで、ぎゅうぎゅう抱きしめていた。おかげで、コロは少し苦しそうだったが。 パタン。 ドアが閉まって、また部屋には静けさが戻る。 それでも、椿はドアを見つめたままだった。
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