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時は文久3年3月の暮れ、場所は京都
『さて…どうしたものか』
この中性的な顔をし、美しい肩下くらいまであるだろう黒髪を後ろで緩く結んでいる少女
名は、如月奈津(キサラギ ナツ)という
この少女は困っていた
『確かにまだ涼しいことは認めるが…』
その少女の目の前には、大きな炎
その炎の元となったものは、周りの宿屋の暖簾や看板
確かに少女にとってこの街は、わりかし馴染みのある街だ
しかし、少女は極端に人と交わりを持とうとしないため、特に目の前の光景に何も思うことはない
ただ、邪魔なだけなのだ
大の大人…しかも、男ばかりがぞろぞろと
「がははは、燃やせ!燃やせ!!」
「芹沢さん…これはやりすぎでは……」
「儂に刃向かうか?!」
「そういうわけでは」
『邪魔だ』
一つの凛とした声が響いた
決して大きくはない
しかし、今までざわついていたこの場所が静かになった
「何か言ったか?」
炎の前で踏ん反り返っている男、芹沢鴨が奈津に視線を向けた
『邪魔だと言…
「何か言ったかぁ?」
よっぽど気に入らなかったのだろう
芹沢は青筋をたてて奈津の言葉を遮り、もう一度尋ねた
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