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男はそれを見ると、手ぬぐいと一緒に心の手を握りさらに泣いた。
ぐぐぐきゅるるる~~……
『……そういえば私…いつから食べてないんでしょう…か………』
大音量のお腹の音と共にふらっと後ろに倒れる。
三人は慌てて女中の者を呼んだ。
「俺は絶っ対反対だからな…!」
「ひどいですよ土方さん!」
「そうだ歳!あんないたいけな少女が嘘をつけると思うのか?!」
土方の部屋で、男と沖田はわぁわぁと文句を言っていた。苛々しながらも土方はキセルに火をつける。
「…あのなぁ…今までにあんな手で何人の間者を許して来たと思ってんだよ…。局長のあんたが信じて新撰組に入れりゃ、世話ないぜ??近藤さんよ…」
「近藤さんを責めないで下さいよ、土方さん…」
この近藤と呼ばれる男は、紛れも無く新撰組局長 近藤勇である。少し肩幅は広くがっしりとした体つきには似合わないような優しい風貌を覗かす。笑うとえくぼができて、どこか幼さも見える。
「しかし…あの少女は…何故記憶を無くしているのだろうか…」
「…だから芝居だっ」
「きっと親にひどい事されて、その探してるお兄さんと逃げてる途中ではぐれてあまりの悲しさに……」
近藤と沖田は勝手に話しを膨らませて二人で頷き合っては、悲しそうな顔をする。土方は呆れ返りため息をつくばかりだ。
「…土方さんはどうしてそこまで、あの子を入れたくないと思うのです??」
「女が一番厄介なんだよ…間者でもなんでも…。どんなに本気になりはしないと決めていても本気になる……だから俺は反対だ」
キセルを持った手とは反対の手で膝に肘をつき、顎を乗せる。そんな土方を不思議そうに見つめる沖田。土方の言葉をぼんやりと考えた。
すると、横から近藤がニヤニヤしながら土方を見た。
「しかしのぉ…歳さんよ…身寄りのないいたいけな少女を見捨てるとは…新撰組の名が廃るぞ…??」
「………」
土方は悔しそうにぐっと黙った。さらに続ける近藤。
「いいのか??女を魅惑する歳さんの名も」
「わぁったよ!!ただし、兄とやらが見つかるまでだからな!それまでは保護という形だ!!いいな総司!」
「は、はい…何故、私に…??」
突然振られた事に沖田は驚き土方を見つめた。
土方はニヤリと笑うとキセルをくわえた。
「お前が連れて帰った事だ。てめぇで片付くまで世話しろ」
「………な……っ!!」
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