第一輪 少女の理由

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箸を置き、御膳を横に避けると立ち上がる。沖田は止めようと慌てて手を掴もうとした。 『…やっ!!』 心はすぐに沖田が伸ばしてきた手を払い、怯え、守るように手を握りしめた。沖田は戸惑い、払われた手を後ろに隠した。 二人の間に重たい空気が流れる。 「その…すみません…」 『…ごめんなさい…』 小さく謝る二人。沖田はどうしたらいいのかわからず、気を紛らわせようと部屋の障子を開けた。 部屋の中に重たい空気を追い出すかのように温かく、眩しい光りが差し込める。それと一緒にあの二人が来た。 「総司、どうだ??心ちゃんとは…」 「…近藤さん…土方さん…」 安心したように肩を落とし、ニコニコしながら入ってくる近藤にムスッとした顔を見せる土方を見た。 沖田とは反対に心の体は自然と力が入る。 それを見かねた近藤は心に近づいていった。 だんだんと近藤が近づくにつれ、心は目をきつく閉じた。すると大きな手で優しく頭を撫でられる。 「どうして記憶がないか…わかるかね??」 『え…??』 穏やかな顔でしっかりと心を見る近藤。見上げていた心は俯くと着物を握りしめた。 『…わかりません…。でもそれ以上にわからないのが、兄を探さないといけないということです…。探さないといけない程すごく大事だということなのに…兄を思い出せないことが…わからないです…』 悔しそうに歯を食いしばるが、泣く事はしなかった。近藤はゆっくり頷くと心から手を離し腕を組んだ。 「焦る事はなかろう。一番不安に思うのは心ちゃん本人だろうからな…。今日からここでゆっくりしていきなさい」 『え…ですが……』 「おぉ!紹介が遅れたな。ここは新撰組と言って、都の治安を護る者が集まっておる。保護するのも仕事のうちだ」 半ば断ろうとする心に気付いているのか、いないのか…淡々と話しを進めていく近藤。 「わしは局長の近藤勇だ。で、左の仏頂面が」 「…副長助僅土方だ…」 近藤の言葉にすねたように目付きが悪くなり、心はびくびくしながら見つめた。 「歳、あまり怖がらせるな…。そうだ。総司!心ちゃんを連れて、頓所の案内をしてやってはどうだ?!」 「は…はい…」 頷くと手招きして心を呼ぶ。戸惑いながらも沖田の元に行き、明るい廊下を一緒に歩いて行った。 「…初な奴だが、なんとか上手くやるだろう」 近藤は微笑みながら二人を見送った。
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