第一輪 少女の理由

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時代は混乱の世。 人を欺き、人を殺し、人を笑う…。 そんな時代だった…。 暖かな風が吹く森の中、たくさんの木々から洩れる光りを浴びながら少女は駆けていた。 頬を風が撫ぜながら少女は何かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡した。しだいに息が上がり、口から吐息が零れる。 しばらく走り続けて少女は止まった。膝に手を置き、肩で息を整える。 『…ハァッ……ハァッ…どこにいるの…っ』 周りに大きな声で叫びながら尋ねる。少し泣きそうな顔だ。 少女が下を向いた瞬間、パキッと木の枝が折れる音がした。少女はすぐに顔を上げる。ちょうど、太陽の光りと重なり眩しくなって片手を目の上に当て、目の前にいる何かの姿を確認しようとした。 『もー……返事くらいしてよ…兄さん…』 少し苛々気味にため息混じりで、兄と呼ぶ男に聞いた。 切れ長の目に髪は高い位置で結ってはいるが、肩に付くか付かないかの長さ。肌は少々色白く、町娘が見れば心奪われるような……言わば、美男子に近い凛々しい顔立ちだった。 しかし、そんな美男子は何も答えない。 『隠れる必要はないでしょ。こんな入り組んだ所に呼び出したのは兄さんなんだから…』 「…すまない…」 顔を反らすように男は少女に背を向けた。 少女は気まずそうに男の背中を見ていたが、明るく努めようと笑顔で冗談を言う。 『に、兄さんが謝るなんて…明日は雨かなぁ』 「あぁ…明日は雨のようだ…」 ふと、不思議そうに晴れ渡った空を見上げる。降るわけがないと感じるほど、空には雲一つない。 風はまだ心地よく、二人の背中を撫で続けている。 『…どうして明日が雨ってわかるの…??』 「いなくなるからだ…太陽が…」 『え……??』 草を踏み付け、少女に近づいていく男。 少女は後ずさる事なく…いや、疑問にすら思う事なく、近づいてくる男の顔を見上げた。しかし、男の顔が見えず少女に恐怖心が生まれた。少女は、だんだんと恐怖から後ずさる。 『…兄さん…??あっ…』 「お前の為だ…許せ…心…」 少女を浅瀬の窪みにまで追い込むと突き落とした。 『……兄…さ…ん……』
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