第一輪 少女の理由

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少女は何が起きたのか理解することなく、落ちるまで相手の姿を見ていた。 男はすぐに窪みに降り、少女の意識がないか確認した。幸い、少女には怪我はなかったが気絶していた。 ぐったりする少女の体を支え担ぎ上げると、あらかじめこうなる事を計画していたのか大樹の後ろへ回り、繋いでいたらしい馬を引っ張ってきた。 馬の体には、大きめの荷物が左右に引っ掛けられている。 男は少女を馬に乗せれば、手綱を引き歩いた。森を出ようとしているのか、だんだんと木々の数が減っていく。 男の歩く道を眩しい光りは淋しく照らしていた。 しばらく歩き続ければ、開けた道へ出た。運よくそこには調度、人はいない。男は目を光らせながら気を失っている少女を見た。 「…心…こうする他、お前の命はないのだ…」 馬の手綱を勢いよく前へと押し、前進させた。 馬は興奮しながらも早足に蹄の音を立てながら走り出した。男はしばらく馬を見つめていたが点になると目を離し、また来た森の道へと帰っていった。 少女もまた、眠り続けていたのだった…。 同じように晴れ渡った空の日。桜の花びらが散り始める頃、京の美しい都では血気盛んな連中が暴れていた。 ガシャーン!! 「金がないゆーてはるやろっ。いつか持ってくるさかい、今日は見逃せや!!」 「堪忍してぇな…っ、うちの店が……堪忍を…っ!」 店主らしき男の言葉にも耳を貸さない俗達は、次々と店の物を壊していく。 周りも泣く泣く壊されていく店を見ている店主と、嬉々として壊していく俗をいやらしい眼差しで、立ち止まってはちらちらと見ていた。 「その辺にしていただけませんか。私もここのお店の味、好きなんですよ」 明るい声で注意する少年のような声が背後からした。 俗の一人が慌てて振り返り、その人物を確認した。 「きさ…ぐあぁっ!!」 刹那に俗は斬られた。 左肩から斜めに右の脇腹を深く斬られ俗は絶えた。 また、本人も何があったかなどはわからなかったようで、たった今刀を持っている者が刀を抜いた仕種にすら気付かなかった。 残りの俗も同様に斬った相手へと視線を向けた。 髪を頭の真ん中に結い上げ、横髪を垂らしている。額には額当てをして表情は、今し方人を斬ったにも関わらずニコニコと笑って、刀を鞘に納めていた。なんとも人懐こい顔で笑う青年だった。
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