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その青年が纏っている衣は浅葱色で袖口にはダンダラ模様が入っている。
「し……っ」
「新撰組一番隊組長 沖田総司。…神妙にお縄について下さいね」
ニッと得意げに笑い右手を上げ合図すると、隠れていたのか一斉に沖田と同じ衣を纏った隊士達が現れ、俗を囲った。
そしてすぐに刀を鞘から抜き、俗に向かって今にでも斬りかかる勢いだった。
俗は冷や汗をかいては逃げ道を目で探して、周りの野次馬達は浅葱色が見えた途端、眉間にしわを寄せ離れていった。
「これだけ暴れておいて…往生際が悪いですよ…」
「ぎゃあぁああ!!!」
これぞ神業。
誰ひとり、沖田の動きなど見えなかったが俗を一突きにしてしまった。それと同時に隊士達が俗に斬りかかる。
俗は逃げ惑ったり、自棄になりながらも刀を交えていった。
まるで、獣を鬼が貪るように数人の敵を大勢で食ってかかる。
その光景を沖田はただ一人、冷静に冷めた眼差しで見つめていた。
力の差は歴然としているため、俗達は長い時間をかける事なく、全員息絶えた。
「…よ、よかったんですか…全員…」
「土方さんからは刃向かうようなら斬り伏せてよしと命が下ってますから。それより」
「沖田先生!!」
沖田の背後に最期の力を振り絞った俗が刀を振り上げ、立っていた。刀が振り下ろされる瞬間に沖田は、腕ごと斬り落とした。
「あー…危なかった…」
「先生!お怪我は…!?」
心配してくる隊士に無事だという証拠に手をひらひらと振った。隊士もそれを見てホッと安心した。
「先生、隊服が汚れてしまったでしょう。自分のですが、どうぞ」
「あ、いえ。大丈夫ですよ」
全体が見えるように袖の中に手を入れ、腕を伸ばして裾をひらひらさせる。隊士は目を疑った。沖田の隊服には微塵も血などついてはいなかったからだ。
それでも尚、それが当たり前だというかのように沖田は、ニコニコ笑い続けていたが隊士達の視線に気付き、見られたくないかのように離れていった。
「……やはり…鬼の申し子…」
隊士が呟いた言葉を沖田は聞き逃さなかった。
それから、斬った俗の人数を確認して引き上げの合図を上げた。道行く者は恐れるように新撰組に道を開けた。
彼らが向かった先は、最近盛んになってきた新撰組頓所という場所。彼らの本陣と言うのだろうか…今日も頓所からは気合いの声と竹刀や木刀がぶつかり合う音が響いてくる。
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