第一輪 少女の理由

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「いやだなぁ。土方さんをからかうのは私の仕事の一つじゃないですか。あ、今日も異常なしですよ」 「お前の隊が異常なし…の言い間違えだろ」 「あぁ…最近怪我してる人が多くなりましたもんね」 土方の言葉に反応して少し考えると納得した。 土方も呑気な奴だと呆れたようにため息を漏らし、キセルを取り出せば火も付けずに口にくわえ込んだ。ふと、視線を落とすと沖田の袴が目に入った。 切れている。 「…お前…何かあったのか…??」 「え??……あ」 土方の視線と一緒に袴を上げよく見た。そして思い出したように呟いた。 「…あの時かな……」 「あの時…??」 沖田は巡察の際、俗に襲われそうになった時に切れたのだろうという事を笑いながら話した。 土方はものすごい形相で、もう少しで隊規に反するだろうと怒ったが、沖田はへらへらして聞き流す。 それは、土方が隊規云々ではなく自分の事を心配してくれているというのがわかっていたからだ。 「……ったく…お前は…」 「すみませんってば。…でもたまに思うんですが…不逞浪士って元は自分の藩を守るために刀を持った人達なんですよね…。どうして…他人を傷つけるんですかね……」 そんな事を沖田はぼんやりと呟いた。土方は何も答えない。 答えがもしわかっていても言葉にできないからだった。 「でも土方さん…相手のこれまでのいきさつを見れたら、斬らずに説得できると思いません…?」 「…あほか。んな事ができる奴がいたら、俺達はいらなくなるだろ」 沖田の呟きを軽くあしらい、キセルを置く。そして思い出したように沖田を見た。 「そういや、お前の袴、仕立てがすんだそうだ。…朝に」 「なんで早く言ってくれなかったんですか!任務ついでに取りにいけたのに」 慌ただしく土方の部屋から出ていく。土方はガシガシと後ろ頭をかき一息ついた。 「も~!土方さんってばどうして肝心な事はすっぽかすのが得意なんでしょうかねぇ」 ぶつぶつと文句をいいながら、道場の前を通りかかった。 今も尚聞こえる威勢のいい声に沖田は少し立ち止まった。 「お、総司ー!お前も寄ってかねぇか??」 永倉から声をかけられたが、沖田は笑顔でやんわりと断った。 「また今度にしますよ。今から仕上がった袴を取りに行かないといけないので」 居合の声に負けないように大きく声を張り上げる。
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