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髪の色は漆黒。睫毛は長く、桜色を帯びた唇に白い肌をしていた。身なりは薄い藍色の着物に紺色の帯だ。農民の出ではない格好だった。
「もし…お嬢さん…?」
沖田は声を掛けながら、小さな肩を揺らした。それでも起きない少女の頬を優しく叩き始めた。女の子をこんな風に起こしていいのか悩んだが、彼の場合他に方法もないので仕方ないと言ってもいいだろう。
『…んっ……』
うっすらと目を開ける少女。
きょとんとした顔の沖田は内心ドキドキしていた。
「だ…大丈夫ですか…?」
寝ぼけ眼のような目で沖田を見た後、ゆっくりと大きく開けていった。そして言葉が出ないかのように口をぱくぱくさせ、慌てだした。
「ちょっ、ちょっと危ないで…わっ!!」
『…きゃっ…!!』
案の定、馬から荷物と一緒に落ち馬はそのままどこかに駆けて行った。少女はきつく目を閉じていたが、痛みがないことに気付き、急いで起き上がった。
『…!』
「私は大丈夫です……貴女に怪我がないことが何よりですから」
自分の身をていして庇ってくれた沖田の顔を、不安げに見上げる。それを見て安心させるようにニッコリ笑って起き上がった。袴についた汚れをパンパンとたたき落としていく。
『…ありがとう…ございました…惣司郎さん……』
「……え…??」
動かす手を止め、沖田は目を見開き少女を見た。そんな沖田を不思議に思ったのか、首を傾げる。
「…どうして…私の幼名を知ってるんですか…??」
『あ…!!』
少女は慌てて口元を手で覆った。が、沖田はすかさずその手首を掴んだ。
「何者ですか…。まさか…どこかの間者ですか…??」
『…っ…』
先程の笑顔が嘘のように沖田は鬼のような目で見つめた。
少女はひどく怯え、首を横に振り否定しようとしたが、自分の事を言おうとするほど言葉が詰まる。
「なら、なぜ自分の身元が言えないんです」
『………』
困惑している少女は涙目でそのまま黙り込んでしまった。沖田はあながちこの少女が嘘をついているとは思えなかったが、とりあえず警戒は崩さなかった。
手首を掴んだまま沖田は立ち上がり、少女も続くようにふらふらと立ち上がる。
「お芝居だとしても一応、貴女は頓所に連れて行きますが…文句はありま……え?!」
ぼんやりと沖田を見つめてはまた気を失ってしまった。
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