独りよりふたり

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    「――…新選組は俺の全てだ。」  芯の籠った力強い口調に凪は胸をどきりとさせた。 「……全て…ですか。」 「あぁ。……文久三年九月二十五日に壬生浪士組から新選組へと名を改めた。」 「…壬生浪士組……。」 「知ねぇか?」 「はい、名前を改めたなんて初めて知りました。」  歴史が得意なわけでもない凪は新選組について知識は浅い。 「上洛して京に残った者で名乗っていた浪士組だ。……まぁ、その頃は金も無ぇ、柄も悪い田舎もんの俺達はえらい煙たがれていた。」  懐かしいのか土方は目を細める仕草を見せる。 「松平容保公に認めてもらい、京都守護職御預となれた時ほど嬉しかった事は無ぇ。」 「……へぇ、凄い……。」  新選組隊士の本人から聞くと生々しくて聞き入る。  思わず凪の口から出た“凄い”と言う言葉が、自分達の成果を褒めているようで土方は少し嬉しくなった。 「で、おめぇは他に何が知りたいんだ?」 「え、と……じゃあ土方さんが親しくされていた方の事を……。」  不謹慎な質問かと言い終えた後に後悔をした凪だったが、その心配は無用であった。 「いいぜ。」  土方は嫌な顔ひとつせず、むしろ表情を柔らかくさせた。 「俺は誰よりも守りてぇ奴がいる。」 「……恋人ですか…?」  守りたいと言えば恋人。と見做した凪は何故かしゅんとする。  その姿に土方は「男だよ。」と口許だけ笑みを浮べた。 「局長、近藤勇。」    最も敬い慕う男の名を口にした時、土方は彼の存在がどれほど大きいか身に知る。  まる一日しか経っていないが酷く懐かしく、同時に思い煩った。  
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