独りよりふたり

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     亭主関白とはこういう人をいうのだろうか、と凪はコンビニの帰路にて考えていた。  土方に紙と書くものをくれと言われ、余っていたノートとシャープペンシルを差し出したが、 『なんだこれは。筆は?』 『筆は家には無いです。』 『筆が無くてどうやって書き物をするんだ!?買って来い!』  と怒られたため、急いで最寄りのコンビニまで筆ペンを買いに来たのだ。  ――…たった一日で家の主みたいな貫禄ついちゃったよ…。  ひとつ溜め息を吐くと茜色の空を仰いだ。 「あら、城咲さん。」  マンションの玄関を通り抜けた刹那、凪が最も苦手とする人物の声がした。  ぎくりと肩を震わした凪は足速に会釈して通り過ぎようとした。 「待ちなさいよ。」  言葉遣いは上品な女性的なのに拘らず、物凄く低い声。 「こ、こんばんは…井上さん……。」  引きつる笑顔で振返ると、凪の部屋の真下の住人である井上が腕組みをしていた。  何度見ても慣れない、派手な服装や髪型。必要以上に施された化粧が痛い。  何故痛い?井上は、女ではないから。そう…オカマ。  井上が女物を好もうと凪には関係なくあれこれ言うつもりはない。  だが井上は口五月蠅い、被害妄想の激しいオカマだった。  何かと言い掛かりをつけて、凪に嫌味を吐く迷惑なご近所さんなのだ。  気の弱い凪が言い返せるわけも無く、出くわせば散々な目に合う。  やはり今日も意地の悪い笑みを浮べると、毒を吐き始めた。 「昨日は随分騒がしかったみたいねぇ。御加減で頭痛くなっちゃったわ。」 「すみません…。」 「凄く近所迷惑だったわ。気を付けて頂戴ね。」  恐縮する凪を尻目に、満足げに微笑んだ井上は軽やかに去って行った。  
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