独りよりふたり

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     ――…小っちぇ形だな。  土方は自分の手に完全に隠れる小さな肩を優しく引いた。  引き寄せられた凪は抵抗する事もなく、泣いた所為で赤くなった鼻先を土方に向ける。 「居なくならねぇとは――…約束出来ねぇ。」  朱みの帯びた群青の空を見据える土方がぽつりと言う。 「だが…俺がおめぇの前から消える時まで……傍にいる……。」 「………え…。」  ふと目を下に落した土方と、凪の視線が絡まった。 「み、見るんじゃねぇよっ!」  ぱちん!と乾いた音をたてて凪は目元を大きな手に塞がれた。  ひりひりと痛むのとは裏腹にその箇所以外の頬までもを熱く火照らせる。 「痛いです……。」 「おめぇが見るからだ!」 「私のせい?」  凪は知らない。  彼が不器用な人間の中でも随一の照れ屋であることを。  暫く寄り添っていたが、土方は何も言わず凪から離れる。 「…あ……。」  ――…少し…もう少しだけあのままで居たかったな…。  寂しそうに土方を見上げるが、彼の耳が真っ赤な事に気付かない彼女は鈍いのか。 「あー腹減った。」 「ああ!もうこんな時間!?」  急いで夕飯の準備に取り掛かる凪は冷蔵庫を開けて唸る。 「何が食べたいですか?」 「沢庵。」 「もう!たくあんたくあんって!たくあん臭くなっても知らないですよ!」 「なんねぇよ。」  鼻で笑う土方はソファにどっかりと腰掛けた。  初めは「こんな軟弱な物に座れるか。」と毒ついていたものの、今となっては随分気に入った様子であった。  
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