独りよりふたり

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     朝目覚めると自分の息遣いしか聞こえなかった、寂しい部屋。  でも今日は何だか違う。  覚醒しない頭を起こすと……―― 「おう。」  壁にもたれる侍がいた。 「お粗末な物ですが……。」  精々定員は二人の小さなテーブルに向き合うふたり。  食卓に並ぶのは、ほかほかと湯気立つ白ご飯に味噌汁、焼き魚にたくあんの平凡な和食だ。  一応献立に配慮した。  幕末にいた人間が「はい召し上がれ。」とトーストなど洋食を出されても戸惑うであろうから。 「すまねぇ。」 「いえ、どうぞ召し上がって下さいっ。」  土方が手を合わせ箸に手を付けたのを見届けると、凪も静かに箸に手を伸ばした。  今日は休日であり学校もお休み。  土方をひとりにさせずに出来たのは安心だが、はて何をして過ごそうか…。  未だ打ち解けあっていないし、会話だって必要最低限しか交わされていない。  外へ行くのもまだ何も現代の事を知らない彼には早すぎるような気もする。  頭を捻らせ考える凪、そして一方の土方も密かに頭を悩ませていた。  ――…こりゃあ何だ…?  銀杏の葉のような形に切られた黄色い物。  それを箸で摘んだ土方は匂いを嗅いだ。 「――これは……っ!!」 「っむぐ!?」  土方の突然発せられた高ぶった声に凪は喉を詰らせた。 「凪!おま…これ……沢庵かっ!!?」 「…けほ、た、たくあんですけど…。」 「こんな奇抜な色が、沢庵……。」 「嫌いですか?無理に食べなくて良い…」  凪が言い終わる前に沢庵は土方の口内へ、そして土方は目をめいいっぱい開けた。 「うめぇ!!」  頬を綻ばせた土方はまた一枚、もう一枚と沢庵を口に入れていく。  あっという間に彼の沢庵を盛っていた皿は空となった。    
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