王家の紅花

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  「情けない」 「目障りだ」 「斬り捨てよ」 それが彼女の口癖であった。 黄金に輝く玉座への階段は滑らかな朱色に塗り固められ、陽光を照り返す度に炎がちらついているかのような錯覚を覚える。 その燃えたぎるような玉座に深く腰を下ろし、足を組んだ彼女は紅い唇を僅かに開いた。形のよい綺麗なそれは、決して甘い唄を口にしない。 「斬り捨てよ」 何の躊躇いもなく口にした言葉は、たった一言で人の命を断つ刃。袖口を落としなまめかしく伸びた白い腕も、決して優しく何かを抱いたりはしない。 「そなたは目障りじゃ」 喩えるならばそう、命の終わりを宣告する死神の鎌。 「残念よの。わらわが王であったこと。それがお前の運の尽きよ……宗啓(そうけい)」 宗啓と呼ばれた男は、燃え盛るような玉座を見上げて唇を噛んだ。 そこには組んだ脚に肘をつき、虫けらを見るような目で見下ろしてくる女性がいた。 峯国現国主『珠華(しゅか)』又の名を『朔珠(さくしゅ)』宗啓の異母姉にあたる。 「姉上!何故にございますか。私は姉上の為を思い……」 堰を切ったようになだれ込む弁解の言葉は途中で続きを失った。赤く染まる視界の先には、美しい女王の姿が揺らぐ。 熱い胸が燃えるようで探るように指を這わせると、硬い何かに当たった。胸から生えるそれが輝く鋼だと理解したか否か。 ――宗啓は意識を手放した。    
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