王家の紅花

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  光隆は苦笑すると自らの妄想に嘆息した。ありえそうだから余計に虚しい。 「わらわが王であるゆえ何の問題もないわ」 高らかに言ってのけた珠華に、光隆はやはりなと肩を落とす。幼い頃から良く知るこの女王はこういう性格なのだ。いつだって言葉を飾らないからどう見ても唯我独尊に映る。 「言いたくないものならばそれ相応の偽話でもしなければ反感を受ける。そのくらい、お前にもわかっているだろう?」 珠華のことを理解しているからこそ、彼女は光隆に逆らえない。何もかもわかってくれた上での発言は、何故か苛立ちを誘っても怒りには変わらないのだ。 「……議に出よと言いたいのだな」 珠華は盛大に顔を歪めて渋々承諾した。 無言で手にしたままの剣を光隆に向けると 「鍛冶場だ。柄が弛んだから直せと言っておけ」 白い顎を逸らして命ずる。 そこでようやく濡れた剣に気づく光隆もどうかと思うが、従うだけでは癪に障るのかこういう時の彼女は必ず普段にも増して高飛車になる。 光隆が飾りの多い剣を受け取ったのを見届けると、珠華は壁や柱に当たり散らしながら石廊に消えていった。 これで一波乱は収まっただろうと、光隆は顔に似合わぬ剣(使用済み)を引っさげて安堵した。 「珠華様、宗啓候を殺されたと言うのは本当にございますか」 「そうだが?その名はやめろ大臣、そちも殺されたいか?」 「いえ!!さ……朔珠様、されど宗啓候は国の要。それも主上と同じ血を引く有能な家臣にはございませんか。何故そのような」 ギロリと睨んだ珠華に大臣は身を竦めながらも何とか最後まで言い切った。 珠華は腕のある王には違いないが、あまりにも刺がありすぎる。この緊急議にも光隆の言葉がなければ来ることさえしなかっただろう。 「主上、意味のない殺生は己の首を絞めることになりますよ。理由だけでもお話しください」 彼女の手綱を握れる唯一の従兄弟、光隆が隣に控えているだけで珠華は大人しくなる。そのことに大きく助けられた重臣達は、揃って彼を女王の婿候補に挙げていた。獣を封じる檻としては最適な人物なのだ。 案の定、珠華は眉を吊り上げてはいるものの口癖はまだ飛び出てこない。それどころか渋々と語り始めた様子に、皆が揃って安堵の息をついた。 「あやつ……宗啓は自らの治める卯州で法を破ったからと言って無用な刑を許可なく行っていた。自身もその理由でわらわに絶たれたまで」    
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