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「……はぁ。それにしても分家である俺の実家が威家を匿っていたとはな。まっっっったく気づかなかった」
いつの間にか訪れた夜の中、光隆は再び嘆いた。少年を下がらせた後、彼の素っ気ない部屋には何の断りもなく珠華が居座っている。
己の情けなさに落胆する光隆に、珠華はけらけらと笑っていた。光隆に隠し通した甲斐があったというものだ。
「玖浪はお前にすぐ気づいたというのに。……その褐色の瞳」
そう言って若い彼の瞼に手を伸べる。珠華の白い指は抵抗されることなく温かな肌に触れた。情けなく下がった眉がぴくりと動くのが面白い。
「そしてその栗色の髪」
もう片方の手が、光隆の髪を纏め上げた紐を勢い良く引き抜く。はらりと薄闇に舞ったのは薄い色の髪。
峯国王家の特徴を、彼はどちらも有していた。
「わらわ(峯王)の持たないそれを、何故お前が持つ?」
光隆が顔を上げると、息のかかる距離に珠華の白い顔があった。その瞳は金に輝き、垂れる髪は燃え立つ夕日の色。
美しいそれらを彼女は欲しなかった。その容姿のためにした苦労を光隆もよく知っているから。
「俺はお前のものだよ珠華。褐色の瞳も栗色の髪も。全てお前だけのものだから」
今にも爪を立てそうな指を手に取ると優しく口付ける。珠華は決して普通の娘のように顔を赤らめたりはしない。
安心したように満足したように紅い唇を弓なりに上げると、そのまま光隆を引き寄せて頭を抱いた。
二人の関係は昔から変わらない。
(俺は珠華のもの。
そして
珠華は珠華だけのもの)
「そろそろ婚儀の話でもしないか?」
自分のものにはならないとわかっていても光隆はいつものように呟く。珠華以外の女を娶る気はなかったし、幸いなことに珠華を手に出来る強者(無謀者な好敵手)もいない。
この関係を壊す存在が現れる前に、何としても夫婦という絆が欲しかった。
だが同じくらいに珠華が首を縦に振ることも期待していない。心の奥底だけとはいえ“女”であることに引け目を感じている彼女が、女になることを受け入れるのは酷だから。
「そうだな」
「あははわかっているよ。いつまでも待つから……え?」
光隆は慌てて笑みを引っ込めると目を見開く。
「珠華?今なんて」
パクパクと開閉する口元に、珠華は変わらず余裕の笑みで答える。
「流石に父無し子では可哀想じゃからのう」
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