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「は?え?父無し……えぇぇええ!!!!!?」
この日の光隆はそういう運命にあったのだろうか。嫌と言うほど驚き尽くし、夜の峯城に何度となく叫び声が上がったことは言うまでもない。
「な、何故お前はこうもっと時と場所を考えてくれないんだっ?そんな重大な事はもっと順序だてて情緒的(ロマンチック)にだな……」
わたわたと忙しなく表情を変える光隆とは対照的に、珠華は相変わらず飄々としている。
「何が情緒的(ロマンチック)だ、お前が赤くなってどうする。生むのは私だ。気にせずともよい。それにしても話には聴いていたが……出産という痛みか、面白い。その挑戦受けて立とうではないか」
(違う。珠華、勝負とかじゃないからソレ!と言うより愛は?喜びはどこに?全然夢がない雰囲気なんだが気のせいか!?婚約は?甘い一時は!!!?)
戦いに闘志を燃やすかのように爛々と輝く女と、煌びやかな妄想と現実のあまりの違いにうちひしがれてむせび泣く男。
若すぎる夫婦(予定)は次期峯国当主を世に生み出すこととなる。
「せっかくお前の種を使用したんじゃ。褐色の瞳と栗色の髪を持って生まれるのだぞ?後はわらわに似れば良いからのう」
高らかに笑う峯国女王珠華、王名朔珠。彼女の強い運命の兆しは、この頃にはまだ片鱗さえ見せることはなかった。
「使用って。俺の体(正確には色)だけが目当てだったのか珠華っ!!……お願いだからせめて首飾だけでも」
「気色の悪いことを言うでない。わらわかて好いてもいない男となぞ嫌に決まっておろう」
「珠華!俺も勿論お前のことを……」
「だが貰える物は貰う主義じゃ。婚約の証でる首飾の宝玉は最高級のもの以外受け付けぬ。確か相手の瞳の色の宝玉だったな。黄金色の宝玉なぞ珍しい。ほほ、返す当ては一生かけても構わぬぞ」
「一生その為に働けと!!?」
二人の関係はいつまでも変わることはない。
俺は珠華のもの。
珠華は珠華だけのもの。
そこに愛があったのかはわからない。けれどそんなことは関係なかった。このまま一生を終えれば仲睦まじい夫婦として歴史に刻まれたろうから。
その日々が最上の幸せなのだと疑うこともなく。
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