第1章 罠

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二時間たって やっと解放された。 桜井社長について店を出ようとした時、 神崎って人があたしに声をかけた。 「樹里ちゃん、寮まで送るよ。」 「あたし…社長と一緒なんで、大丈夫ですよ。」 そう言いながら、 桜井社長に目配せする。 「いや、今日は遅くまで付き合わせちゃったし…」 返事に困るあたしを見て、 桜井社長が口をはさんだ。 「せっかくそう言ってくださるんだから、送ってもらいなさい。」 これで、 断る理由もなくなった。 「はい…」 しぶしぶ返事する私を尻目に、 社長は神崎に深々と頭を下げる。 「では、私はこれで…今日はありがとうございました。」 一瞬だけ 私に目をやる桜井社長。 「樹里をよろしくお願いします。」 そう言って、 置き去りにされた。 今思えば、これが… 桜井社長が あたしを売り渡した瞬間だった。
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