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「ご苦労様です。ここにでも置いてください」
ウェッジウッドのカップを片手に、クリーム色の機械を叩くのは、現文教師、そして担任の城井雪斗(しろい ゆきと)。
優美な微笑や言葉とは対照的に、コピー機からはガヴィン……と残響切ない、可哀想な鳴き声が聞こえてきた。
「あんまり叩くと壊れますよ」
とりあえずそう言うものの、躊躇わずにノートを乗せる。
コピー機に同情は不要だ。
むしろこの程度で働かなくなるくらいならば、印刷業から引退した方がいいだろう。
しかし、唯一と言える利用者である城井先生のせいで、引退に追い込まれるとしたら、彼はその末期になんと思うだろうか。
考えては見るものの、コピー機の気持ちなんて、俺には分からない。
どさり、という音に混じって聞こえる、樹脂のきしむ音を聞きながら、すまし顔で紅茶を楽しむ先生を見る。
寮制男子高等学校、私立香緑(かろく)学院高等部。
城井先生はここの教師陣の中で、いろいろな意味で有名な男だった。
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