1.遭遇

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  きっと誰もが最初に目を引くであろう、個性的なものを、城井先生はいつも首から下げている。 ――蛍光灯の下、少し鈍い金色の輝きを放つ、黄銅の懐中時計。 それは、よほど大切なものなのか、生徒はおろか校長にですら、指一本触れさせないという。 確かに俺の周りで、触れようと目論む人はいるが、触れたと言う人は全くいない。 しかし、そんなに大切なものならば、人目につかない場所にしまえば良い。 “懐中”時計なのだから、ポケットにでもしまっておけば良いのではないだろうか――というのが、俺の持論。 どうして触れさせたくないのに、目立つところに身に付けるのか。 『ただのお洒落ですよ』 城井先生は、以前そう言っていた。 瀟洒な顔に、掴み所のない微笑みを浮かべて。 俺には、城井先生が何を考えているのか、さっぱり分からない。
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