1.遭遇

5/18
前へ
/160ページ
次へ
  そんな城井先生は、香緑学院の教師陣の中で最も若い。 実際の年齢はよく分からないが、見た目だけで判断すれば、まだ三十代に至っていないだろう。 これが、時計以外の、城井先生が有名な理由となっていた。 なまじ若くて顔が良いばかりに、あるいは親しみやすい先生として、あるいは恋愛対象として、良くも悪くも生徒から慕われ、いつも注目を集めているのだ。 覚えていない方のために、もう一度言おう。 私立香緑学院高等部は男子校である。 城井先生に抱かれることを夢見る一途な男子は一部だが、俺の友人のひとりには、パンピーの城井先生を抱くことに憧れる、かなり希少で物騒なやつがいる。 そして俺はそいつらの、羨望とやっかみの対象になっていた。 理由は至極簡単。 俺が城井先生に、目を付けられているからだ。 授業ではしょっしゅうさされるし、今日のような雑務だって、ほとんど俺が頼まれる。 ホームルームでは、本来存在しない“雑用係”という役職が、最近密やかに産声をあげた。 そこに名を連ねるのは、言わずもがな、俺だ。 どうやら俺は、城井先生に嫌われているらしい。 しかしそれでも、好きな人の関心を得ている人に憧れを抱く純情は、古今東西、老若男女を問わぬもの――俺にしてみれば、授業の解答権も、雑用係の籍も、むしろもらってほしいと願うものである。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

200人が本棚に入れています
本棚に追加