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もう一つの意味での変化はその体躯だった。
天を突くその巨躯は当時とは比べ物にならないくらい巨大になっていた。虚ろな目元には白い隈取りが何本も増えていた。その様相は神に仇なす反逆者のそれではなかった。まるでかつての偉業を讃えるようだ。最も本質的変化と言えるのは尾の数だ。数百年前の戦争時の尾の数は六本。今の尾の数はなんと九本にまで数を増やしていた。もはや彼女は妖孤の一括りで説明出来る者では無くなっていた。
そんな彼女の目の前に、一人の女が立ちはだかっていた。
1
なんだコイツは?
彼女は困惑した。確かにここ百年なにか刺激を求めていたのは確かだが、人間の小娘を寄越せとは考えたこともない。なんだ? 神が私に差し入れか?
小娘は鋭い目付きで私を見つめる。なるほど、殺して欲しいらしいな。まぁ暇つぶしにはなるだろう。地獄の苦しみを与えながら生かすのも手だな。
「貴女がこの谷の主ですね?」
女な私を前に凛とした態度で話しかける。
なかなか肝の座った小娘だ。黙らせる前に遊んでやろうかな。巨大な瞼を数年ぶりに持ち上げる。
ぼう、これは驚いた。育ちの良さそうな小娘だ。鮮やかな刺繍の施されたシルクの着物を着ている。歳は二十歳前後といったところか、顔立ちはマシな方だが、何処かふぬけた顔をしている。まるで世の中を知らない世間知らずの顔だ。
「大きな目ね。起きているなら話しを聞いてくれても良いんじゃないですか?」
「クカカカカ、お前に用事が在っても儂には無い。お互い話したいことがなければ会話は成り立たんじゃろ?」
小娘は儂が返事をしたことが嬉しかったらしく、厳しい顔が笑顔に緩む。ますますふぬけた顔に成った。若いとは恐ろしいな。
「お返事ありがとうございます。これで会話は成立ですわ。ご無礼をお許し下さい。おはようございます。狐の姫さま」
「クカカカカ」
数百年振りに腹の底から笑えた。なかなかどうして楽しませてくれる。なるほど、殺すのには惜しいな。
「クカカカカ、小娘、お主なかなか楽しませてくれるのう。クカカ、楽にせよ。数百年来の客人じゃ」
「いえ、此所は貴女の谷です。貴女は主らしくしていれば良いのです。種は違えど我が一族は年長を敬うものです」
歳に不相応な作法で頭を下げる。
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