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二人が真美の職場を訪れてから半月が過ぎた。
8月になり、孝たちの住むこの地域では、毎年かなり大きな祭りが催される。
踊り連は熱く踊り狂い、恋人たちは手を繋ぎ、思い思いの時を過ごす。
女の子はみなかわいい浴衣を着て、愛しい彼に寄り添いながら。
『はぁ……毎年の事ながら嫌になるなぁ』
真は心の中で呟き、目の前を行き交う楽しそうな恋人たちを横目に見ながら蛍光色を放つ警棒を振る。
真の仕事は道路標識などを扱う会社の営業マン。
役所がメインの顧客である為に、こうした役所主催のイベントには、仕事上の付き合いでヘルプに駆り出される。
主に交通整理だ。
『真美と祭り来てみたいなぁ』
そんな事を考えながら、機械のように警棒を降る真の前を一組のカップルが通り過ぎようとしていた。
「なんで……?」
真は呆然とし、自分の目を疑った。
ピンク色の浴衣姿の真美が、背の高い男にぴったり寄り添いゆっくりと歩いている。
真美はふと視線を感じチラッと横を見ると、目を見開き立ちすくむ真と目が合った。
その瞬間は驚いた表情を見せたが、すぐに視線を反らし立ち去って行った。
あの香水の香りを残しながら……
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