プロローグ

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 ひらひらと桜の舞う坂道を、キャリーバックをゴロゴロと転がしながら歩く。  季節は春。温暖化のせいで気温が高くなっているとはいえ、山間部はそこまで気になるものでもない。  最初はそう考えていたんだけど……。 「あづいー。つーかーれーたー」  あ゙あ゙あ゙……、とかゾンビなうめき声を発しながら、やっぱりタクシーに上まで運んでもらえばよかったと今さらになって激しく後悔する。あまりにも見事な桜並木だからと、歩いて登ろうなんて思うんじゃなかった。  ブラウスの胸ポケットに入れてある懐中時計を確認すると、歩き始めてかれこれ一時間は経っていた。  ちくしょー。タクシーのオヤジめ。なにが『そこまで遠くはないかな』だ。徒歩で一時間以上かかれば十分遠いんだよバカー!  坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとはよく言ったもので。ここまでくると最初こそ絶景かな絶景かなとか思えてた桜も、だんだんと鬱陶しく感じられてきた。ひらひらひらひら、お前らは身軽で気軽でいいよなこんちくしょー。みたいな。  そんな風に心の中で益体も無い悪態をつきながら歩き続けるていると、ようやくお目当ての場所が見えてきた。  神社にある鳥居よりももう一回りほど大きな門。絵本なんかに出てくるお城を連想させられる、これまた大きな建物。 「あれが、アタシが通う学校かー……」  その偉容に、ゴクリ、と唾を飲む。 「やっとやっと……」  万感の思いを込めて呟く。 「着いたぁ……」  正直な話。大きさとか偉容とかそんなことよりも、やっとこさ着いたことの方が感激なわけですよ。
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