第壱章/義勇軍

16/36
前へ
/120ページ
次へ
「えっと名前何っつたか?」 人の名前を覚えておらず直接本人に聞いてきた。 「………りょ、燎嵩ですけど。」 「おお、燎嵩か燎嵩。お前、龍なんだから兄者を頼むな。兄者の夢、叶えてくれよ!」 おっきな力強い手が背中をバンバン叩く。 かなり痛い。 「か、勝手に龍にしないで下さいよ!」 反論したが、そこに既に張飛はおらず劉備と楽しそうに話し込んでいた。 「………。」 -うーわー質悪ぅ- 人の話など聞かない人だと認識した。 「さ、城へ戻ろう。皆が心配している。」 「おう。燎嵩!帰るぜぃ。」 「は、はい!」 馬を歩かせ自軍の城へ戻っていった。 「殿様!軍師様がお戻りになられておられます。」 兵からの言伝に劉備は破顔一笑する。 「孔明が戻ったか。」 その名前に燎嵩はドキッとする。 名高き蜀の名軍師諸葛亮孔明だ。 しかし遠目で見る程度だろう。 燎嵩は兵士ではないのだ。関わる事もないだろう。 「そうだよなぁ。それに俺この先どうなるのかな。劉備軍の一員でもないし。」 張飛らが言っていた龍とかどうのこうのは今は置いといて、客将でもない単なる民?な燎嵩が劉備軍にずっとは居られないだろう。 考え込んでいたら、頭の上から劉備の声が降りてきた。 「燎嵩、孔明の所に行くぞ。」 -は?- 意味が分からず首を傾げる。 「孔明にそなたを紹介したいのだよ。張飛と馬超との間を打った、あの弓の見事さ。素晴らしいものだった。」 -それなら別に孔明氏に会う事もないのでは?- ますます疑問に思った。だが次の言葉に凍りつく。 「龍を孔明に紹介せねばな。」 -うがぁ!?龍?!まだ言ってるんですか!?- 満面の笑みで燎嵩を見ていた。 「……………。」 このまま誤解されたら大変申し訳ない事に。 蜀は滅亡するから天下取れない。史実が確定している。 「りゅ――。」 再度誤解を解こうとした時だった。 「殿、只今戻りました。」 深々と頭を下げ劉備に帰宅の挨拶をしにやってきた人物に消された。 「おお、孔明!今そなたの部屋に参ろうと思っておった所であった。」 -嗚呼……弁解できないよぅ。- 燎嵩はまた機会を逃してしまう。 -ん?孔明?- ハタと劉備の言葉を反芻する。 孔明と呼ばれた人物を見た。 その人物は確かに軍師らしいナリをしていた。 白羽扇を持ちヒゲをはやし立っていた。 「殿直々に私の部屋にですか?」 優しい落ち着いた声の持ち主だった。 「ああ、出会った龍を紹介しようと思ってな。」 「龍?」 劉備が燎嵩を諸葛亮に会わせた。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

756人が本棚に入れています
本棚に追加